写経

友人と一緒に、京都泉涌寺へ。
本堂と舎利殿楊貴妃菩薩像が安置されているお堂、宝物殿などを鑑賞した後に、泉涌寺の一角である雲龍院へ。写経を。
雲龍院のお堂に入ると、まず睨み龍の屏風。見る方向によって、龍の表情が変わるとの事であったが、表情というよりは、ほんの少し龍の鼻の長さが変わるという程度だった。まぁ、そんなもんだろう。

その後、薬師如来像が安置されている御堂へ通されたあと、灰色のインクで般若心経が印字された半紙を渡される(つまり下書きされている訳だ。あらかじめ。)。
そこで、早速写経開始かと思いきや、まずは体を清めなければならないとの事で、口を清める為に丁字(クローブ*1 *2を口に入れ、手を清める為に塗り香を手に振りかけられる。

一連の清めの儀式を経たところで、写経を。泉涌寺の写経は、他のお寺さんのものとは一風異なり、朱墨で書く。黒墨は彼岸の者を思って書く際に用い、朱墨は此岸の者を思って書くものなのだそうだ(泉涌寺の関係者に聞いた訳ではないので、定かな情報かは分からないが)。
障子を透過した薄明かりに照らされ、一文字一文字、丁寧に綴った。時折聞こえてくる鶯の囀りや、流れ込んでくる風が何とも穏やかだった。

元来、僕は細かい作業や手先を使う単純作業が好きなもので、集中し始めてしまうと平気で5時間も6時間も全く労せず過ぎていってしまう。今回の写経も同様だった。一切の雑念が吹き飛んでしまい、ただ目の前の作業を完遂することだけに意識が注がれ、あっという間に1時間が過ぎていた。
写経の効果なんだろうか、鬱積していた観念が払われ、なんとも清清しい気分になれた気がした。

その後、出来上がった写経文を薬師如来に奉納し、ひとまず写経は終了。

写経が終わったところで、座敷に案内され、雲龍院の庭園を鑑賞しながら抹茶と茶菓子を頂いた。緊張が解される一服だった。庭園には石楠花が咲き誇っており、新緑に映えていた。
禅の庭園のように、緊張感のある庭ではないが、こうしたほっとするような庭というのも良いものだな。

庭園には、一面、楓の木が植えられているらしく、秋になるとそれは見事に紅葉するそうだ。こうした庭や、木々の美しさを楽しめる様になったのは嬉しい事だ。少し餓鬼じゃなくなったという事なんだろうかな。

*1:クローブ」:インドネシアモルッカ諸島原産。開花直前のツボミとガクを摘み取ったもの。強い殺菌・消臭作用、胃腸の強壮作用などをもつ。日本には5〜6Cに既に入ってきていたようで、正倉院にも保存されている。仏教の密事には香木や香料、現代的?に言えばアロマだとかインセンスを昔から使ってきたとされている。この丁字もまた、こうした密事に使われていたものだということだろう。インド→中国→日本と仏教が伝播してくる過程で、共にアーユルヴェーダが今回お邪魔した、泉涌寺真言の寺なので、そうした

*2:アーユルヴェーダ」:インドの医学。サンスクリット語でアーユルは"生命”、ヴェーダは"科学"を意味する。その歴史は5千年にわたり、ギリシアチベット医学などにも強い影響を与えている。)