Book Offにて


処世術は世阿弥に学べ! (岩波アクティブ新書)

処世術は世阿弥に学べ! (岩波アクティブ新書)

上記の本を300円にて購入。明大法学部教授(功利主義倫理学の研究)であり、かつ能楽研究家であるという、少し変わった経歴をお持ちの著者さんでした。文字も大きく、文章も簡易なので非常に読みやすい。内容も面白かったです。

内容は、というと、能楽の世に大成させた人物であり、かつ世界初の演劇理論書「風姿花伝」を書いた世阿弥の思想に、処世術を学ぼうじゃないかというようなものです。構成としては、風姿花伝から幾つかキーフレーズを取り出して、それを現代の事象に当て嵌め、それに見習おうじゃないか、ってなものです。


感想は、まぁいつの時代も人間は変わらないのよね、ってぇ感じかな。
世阿弥の言葉を現代の事象に当て嵌めても、納得できる部分がある訳ですよ。ははぁ、なるほどね。その通りだと。これは、世阿弥が先見の明があった、って事を意味してる訳じゃなくて、良い観察眼を持っていたって事なのですね。


つまり現代の事象に当て嵌めても納得できるってのは、室町の昔から、人間が失敗する理由も、成功する理由も大体一緒なんだということです。


世阿弥は、その理由を透徹出来るだけの観察力が優れていたって事なんだと思います。



例えば

「離見の見」
「眼、まなこを見ぬところを覚えて、左右前後を分明に安身せよ」

という二つの言葉があると。

これは、どういう意味かというと、眼は自分を見ることが出来ないのだから、左右前後をよく見て、その左右前後の視点から、自分がどう見えてるのか
ってのを考えてみなくちゃいけないぜ、という事みたいです。
まぁ、自分で自分を客観視する姿勢を持たなきゃ、独りよがりになっちゃうぜ、って事ですね。


これは、おっしゃる通り!ですよ。全く。

先日の日経新聞の記事で


”企業力を高めるには、「メタ認知力」が必要。”
という記事があったのです。メタ認知ってのは、つまり自分で自分を省みる作業の事。自分で自分の行動や自分自身のあり方を振り返る事、っつーのを意味するみたいです。認知心理学とかの用語だとか書いてあった気がしますが、よく覚えていません。


で、企業力を高めるには、企業自身が自分を客観的に評価出来ないとダメよ、というのがこの記事の本旨な訳です。企業内倫理で行動していた場合、汚職や不正行為が日常化してしまい,企業外部の倫理基準なり評価基準から外れた行為をとる事に疑問を感じなくなってしまう。結果、企業価値が下がってしまうという訳ですね。


他にも、米国のロケット、チャレンジャー号の爆発の原因も、ロケット開発者が爆発の危険性をメタ認知できていなかったからだ、なんて事もどこかで言われていた気がします。その場合、逸脱の常態化、なんて言い方をしてたような気がします。



あと、実際に最近は行政の分野で、このメタ認知の重要性が認識されているようで、行政機関内(或いは完全な外部の機関に委託)に第三者評価機関を設け、行政の内容を客観的に評価し、適正な行動を促そう、なんて動きも活発化してきていますわな。勿論、メタ認知っていう言葉は使ってないと思うけど。


「離見の見」って言葉は、つまりはこういう事な訳ですよね。
未だに人間は自分を客観視するっていう課題を克服出来てないため、この言葉が効力を持ち続けているのですねぇ。